みなさんにも作業工程を考えてほしかったからです。
そのことをとおして、なぜ学問をしているはずの人間が、毎日趣味に真剣に取り組む必要があるのかをすこしでも感じ取ってもらいたいと思っています。
ただでさえ、日本という国では、いくら豊かになっても趣味というものとの向き合い方がちっともうまくならないようですので。
これからの日本や世界を創り上げてゆく学生のみなさんは、これまでの人類が築いてきた「文化」というものを、真正面から捉えることをぜひともやってもらいたいと思います。
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ここで「文化」という言葉がでてきましたが、みなさんは、その「文化」ということばを聞いて、それがなにかとわかりますか?具体的に全体像をつかんでイメージできるでしょうか。
こういう抽象度の高い概念は、具体的な事物をたくさん見た上で、それらを総合して共通点を抜き出して(学問で言う「一般化」です)把握しなければならないものです。
具体的な個物を抽象して概念を創り上げることはひとつの「止揚」のありかたです。
たとえば、家から出たこともない子どもが口真似する「犬」ということばと、わたしたちが外に出て、お隣のポチも、旅行先で見たコリーも、盲導犬も、フランダースの犬をも自分の目で見て聞いて時には噛まれて経験したことを総合して導きだしてきた「犬」という概念とは、表面上は同じ文字や音声表現であったとしても、それが意味する中身がまったく異なっているでしょう。
そのようなときに、後者の概念の中には、個物が止揚されている、と言います。
弁証法という考え方で、ものごとの表面上の見た目だけではなくその「過程」をとても大切に扱うわけも、ここにあります。
大学生のみなさんであれば、どれだけ引っ込み思案だったとしても、そういった深い意味を含んだ「犬」という概念を自分の力として扱えますよね。
それでは、「文化」ということばはどうでしょうか。
これまで人類が創造してきた文化を継承して、後世に受け継いでゆくことができそうですか。
わたしたちが後世のために「人類文化を一身に背負って」と表現するときには、当然のことながらその文化がどういうものかが明らかになっていなければならないのですが、そう発言する当人は、ほんとうに「文化」というものをしっかりと把握できているでしょうか。
この記事が、そのことを考えるための入口になってもらえれば嬉しいなと思ったので、「趣味の考え方」という題名をつけました。
以前に趣味についての記事を書いたときにも触れたように、どんなジャンルに取り組む場合にでも一流のやりかたをしている人ならば、そこから普遍性を導き出すことができますから、そこまでたどり着いている人にとっては、ほかのジャンルを熱心に取り組んでいる人とも、心を通じ合わせることができるのですよ。
大事なのは、何に取り組むかということよりも、「どう取り組むか」ということです。
それを念頭において、一流を目指して、趣味を考えてゆける大人になってください。
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さて、では革細工における問題を、どのように解決してゆけばよいかを考えてゆくことにしましょう。
楽器の演奏や武道の技と違って、革細工はこうやってたくさん写真を貼って、みなさんにもあるていどの創作過程をなぞらえてじっくり考えてもらえるのが嬉しいところです。
今回触れるのは、だいぶ前から取り組んでいた、自転車フロントバッグです。
以前にわたしが試験的に作って自分で使いながら問題点を洗い出してきたバッグがあります。
今回のバッグを作るにあたって、これをG1(第1世代)と呼ぶことにしました。
G1です。作りたての頃の写真なので真新しいですね。 現在どうなったかは、つづく記事でお見せします。 |
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さて今回のお題は、あたらしいといっても、前回作ったフロントバッグと作るものは同じはずなので楽に進められそうに思いますよね。
すでに型紙もできており作業手順も前の通りにやればよいのですから、例えて言えば数年前に通った道のりを地図を手がかりにもういちど歩くようなもののはずです。
わたしもそう思っていましたが、そうではありませんでした。
その理由は順に説明してゆきますが、まず、備え付ける本体となる自転車を見てみましょうか。
現実のありかたから謙虚に学ぶ、それがものづくりの出発点であり大原則です。
大原則というのは、一見すると問題が解決できそうにないときにもやはり、戻ってこなければならない地点であるということです。
問題を解決できないのは、向き合っている対象についての理解がまだ浅いからだと思ってください。
さてフロント(前の)バッグというからには、前のキャリア(荷台)に備え付けるものを作るのでしたね。
横から見たとき。 |
斜め前から見たとき。 |
ここに備え付けるバッグを考えてゆきますが、いくつか条件があります。
・がたつかないこと
・走っても外れないこと。
「そんなことは当たり前だ」と思うでしょうか。
しかし残念ながら、いまの自転車アクセサリ業界に流通している商品は、そんな当たり前すら満たせていないものが少なくありません。
わたしのいちばん始めに買ったバッグは、購入して1ヶ月も経たないうちにプラスチックのアタッチメントが折れて、走行中にバッグが外れて転げ落ちてしまいました。
また今回は、キャリアの背もたれの前にワイヤーが出ており、バッグの背面とこことが干渉してはいけませんから、条件が追加されます。
・ワイヤーと干渉しないこと。(フロントキャリアに載るだけではダメ)
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全体像。 |
ベルトを背面につけるか、底面に何らかの工夫をするか、キャリアに縫いつけてしまうか。
スタンドとじっくりにらめっこしながら考えてみてください。
次回ではわたしが考えた答えを提示しますので、それよりももっと良いやり方を思いつけたかどうかと考えてみてください。
(3につづく)
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