研究やらケース作りのほうに関心が削がれていたのでほったらかしになっていました。
どんな機械のメカニズムよりも、森羅万象の構造のほうがはるかに面白いですしね。
先日の記事での問いかけをもう少し考えてもらいたいこともあって、こちらのお題を先に片付けてしまうことにします。
で、どうなのか?
結論から言うと、これに尽きます。
「マップが最低。」
なにが悪いのかといえば、iPhone 5に搭載されているオペレーティングシステムのiOS 6にくっついてくるマップのアプリケーションがどうにも使い物にならない、ということです。
しかしそれまではiPhoneのマップといえば、「就活生には必須」と呼ばれているほどの信頼性がありました。
たとえばキャンセル待ち狙いで説明会の会場に駆け込みたい、という学生が2名いたとき、iPhoneを持っているか従来型の携帯電話(いわゆるガラケー)を使っているかで、席をとれるかどうかが決まる、というくらいのものです。
最寄り駅に着いたら、住所か会場の名前を入れてポン、で、現在地からの経路が地図上に表示されるのですから、迷わないはずがありません。
それにたいしてガラケーでは、アプリケーションを立ち上げるのにモタモタ、表示速度がモタモタ、現在地を特定するのにモタモタ、ちょっと先を見ようとすると利用料を払え…とくるのですから、はっきりいって、売店のおばちゃんに道を聞くほうがよっぽどわかりやすくて早い、というところです。
◆◆◆
ここが普通のPCなら、新マップだめじゃん、旧マップのほうがいいや、となったら、入れ替えればよいだけの話なのですが、iPhoneという端末は、Appleの方針でユーザーが好きにいじれるところがあまりないのです。
ただこれまでは、このクローズドな方針のお陰で、ひととおりのサービスが使い勝手良く提示されているので、一般ユーザー、とくに機械オンチぎみの人全般、おじいちゃんやおばあちゃんにまで、唯一無二の端末として歓迎されていたのでした。
ところが今回は、そのいわばお仕着せの環境のうち、一、二を争うほどに重要なはずのマップアプリケーションが、Apple製のダメなマップに変わってしまったからさあ大変、ということなのです。
これには少し経緯があり、数年前には蜜月関係にあったAppleとGoogleという会社は、GoogleがΑndroid OSを買収して、iPhoneに対抗する端末を作り始めたところから一気に関係が悪化し、AppleがAndroidを搭載したスマートフォンを販売するメーカーを訴えるという代理戦争にまでなっていたのでした。
そこで、というわけで、Appleは自社の製品から、なんとしてもGoogleのサービスを締め出そうとしたために、Googleの情報を利用していたマップ、加えてYoutubeのアプリケーションを削除し、前者についてはApple自身が新規で作成するということになったのです。
こんな政治的ないざこざにユーザーを巻き込むとは、子供じゃあるまいし…と思うのですが、そこをやってしまうのが良かれ悪しかれAppleの流儀。
ただそういう体質は、古いしがらみを断ち切って新しい流れをつくり出すぶんにはよく、Appleがいなければまるで普及していなかったであろう考え方も多いものです。
たとえば小型フロッピーディスク、CD、USBあたりの規格をはじめ、設計思想や広告など多岐に渡ります。
◆◆◆
そのドラスティックでリスキーな方針を知る昔からのAppleユーザーは、今回の騒動も「またか」と受け止めて事の成り行きを見守る、という温和な人たちが多いようです。
しかし、主力商品のMacがシェアわずか5%以下といった普及率だった頃は、ベテランユーザーが自己解決したり、コミュニティを作って初心者をサポートできたのでよかったのですが、現在のiPhoneをはじめとしたiOS機器は、世界で1億台以上が普及している端末なだけに、今回の件は、あまりにも自分の立ち位置を自覚していなさすぎる、と言わざるを得ません。
事態の収拾のために、CEOがマップアプリの不出来を謝罪し他社アプリを使うよう促す声明を出す始末ですが、はっきりいって、ユーザーが望んでいるのはそんなことじゃありません。
「前のマップ返して」、これ。
ただ根こそぎダメかというと、技術的には先進的な部分も多いのですが、なにしろ実際に使うユーザーの立場からすると、情報量が少なすぎます。
たとえば、旧マップ(iOS 5に搭載。Google製のマップ情報を利用)と、新マップ(iOS 6に搭載。Apple製)で、それぞれ同じ駅名を調べてみましょう。
すると、こうなります。
ね、誰がどう見てもダメでしょ。
右側は寄り過ぎだからでは…?と思われるかもしれませんが、視点を引くとほとんど何も表示されなくなるので、ここまで寄らざるを得なかったのです。
ちなみに、新マップは海上(海中?)にも駅があるようですね…。
これが地方都市だけじゃなく都心部でも多かれ少なかれこんなふうなのですが、地図というのはそもそも、環境が変わり続ける以上信頼度が100%になることは不可能だとしても、最低でも10個調べたら1つ間違っていた、くらいの信頼は置けなければ、かえって無駄足になってしまうものです。
そういう観点からすると、今回の新マップは「かえって無いほうがマシ」と言っても良いレベルです。
実際に、この前自転車ツアーに参加したとき、新マップでコンビニがちゃんと正しい位置に表示された時は、周囲から「おおー!」という歓声が上がるほどでした。
いったいどれだけ信用されていないのかがおわかりになるでしょう。
◆◆◆
今回のマップがダメなのは、一般に言われているような、Appleが提携している日本の地図会社が仕事をしていないとか、マップのフォーマットがダメだとかではなく、純粋にエンジニアリングレベルの問題、つまりAppleの情報の扱い方にそもそもの問題がある、ということのようです。
(参照:iOS6地図は元データや文化の差異ではなく、ずさんなエンジニアリングが原因 - 横浜スローライフ -- My slow life in Yokohama)
まあそんな理由は、いくら論じようが一般のユーザーには関係がありません。
使ってダメなものはダメ、出てきたものがすべて、ですから、Appleが意地を張り続ける以上、わたしたちが賢く回らねばなりません。
わたしなんかはさっさとiPhone 5を脱獄(気になる人は検索してみましょう)してしまって、旧マップを入れなおしたいところなのですが、未だ安定的な方法が確立されていないようなので、世にあるマップをほとんどすべて試してみました。
上記の謝罪の際に、Appleもいくつかマップアプリを薦めているのですが、どれも一長一短なので、結局、「やっぱり旧マップ返して」と言いたくなります。
そういうわけで、旧マップにいちばん近いものはどれか、という観点から調べると、これがいちばん良いアプリだということになりました。
Maps+ |
ダウンロードするだけなら無料なので、誰でも試せます。
一定以上の機能を解除するにはアプリ内課金で利用料を払う必要がありますが、数百円なので買う価値はあると思います。
このアプリでさっきの場所を表示するとどうなるか。
旧マップが帰ってきた!
という印象ではないでしょうか。
実際に使い込んでみると、国内の周辺施設の検索ができない(たとえば、「現在地の近くのマクドナルドを検索したい」など)、という問題があるのですが、こればっかりはどうにもならないので、GoogleのマップをSafariなどのウェブブラウザから呼び出して調べるほかありません。
(この方法を使うととても便利です。
参照:iOS6でGoogleMapsをフルスクリーン表示にしてみました - W&R : Jazzと読書の日々)
ただこの場合も、住所さえわかっているのなら問題にはなりませんから、目的地がはっきりしている場合には前もってアドレス帳にメモしておけば出先での手間を省けます。
また、旧マップにはなかった機能として、「GPSロガー(トラッキング)」というものがあり、これを起動していると、ウロウロした行程を地図上の線として記録しておいてくれます。(メニューの"Track"を選ぶ)
旅が好きな人はきっと気に入りますが、長距離のトラッキングにはアプリ内課金で制限解除をする必要があることも付け加えておきます(ちなみに買い切りなので、一度買ったらそれ以上、月額料金などの利用料を払う必要はありません。iPhoneで課金すれば同じアカウントのiPadでも制限解除されます)。
◆◆◆
ああそういえば、マップの問題があまりに大きすぎて言及できませんでしたが、iPhone 5のデザインは、iPhone 4、4Sの系列と並べて考えれば、とても合理的に、必然性をもって行き着いたものであることがわかります。
簡単に言えば、「それまで複数の機能をもたせていた複数の実体を統一する」ということで、Appleのデザインはやはり、簡単であっても(ただし実践するのは難しいのですが)弁証法的な性格を持っているなあと思わされます。
デザインする、という感性一辺倒に見える行動も、見る人間からすれば、論理性をもって見えてくる、ということでもあります。
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