2013/07/29

サリバン(著)『ヘレン・ケラーはどう教育されたか』はどう読むか (1)


長い記事になりそうですが、


よろしくお付き合いください。

今回からはじまる一連の記事の中での参考文献は、以下の書籍です。

サリバン(著)/遠山啓序・槇恭子(訳)『ヘレン・ケラーはどう教育されたか サリバン先生の記録』(明治図書)

◆◆◆

そもそもこの本を参考書に選んだのは、学生のみなさん、とくに将来、人を教えたり導いたりすることを目指している人たちに、目の前の被指導者たちのあり方のどこに問題があり、それはどのようにすれば改善させてゆけるのかを考えるにあたって大きな指針となるものであるはずだ、と考えたからです。

ジャンルで言えば、認識論や、指導論のおはなしが中心となってゆくことでしょう。

これからの記事では、この書籍をいかに読むべきか、ということをみなさんとともに議論しながら書いてゆくことになります。

そのときに注意していただきたいのは、これを単に障害児教育の類い稀なるケーススタディであるということとして読むのではなく、「目の前の人物のあり方に問題がある場合に、いかにして働きかけるのか」という、教育・指導・コミュニケーションにおける<論理>を掴み取るためにこそ読んでもらいたい、ということなのです。

この、いわば教育実践における論理を引き出す際に必要なのは、やはり弁証法的に読んでゆく姿勢である、ということになります。しかもそれは、現実から考え始めるという唯物論の立場によってなされるべきだ、ということになります。

この前の一連の記事で、弁証法と形而上学、唯物論と観念論の違いについて例をあげながら述べましたが、この本においても、唯物論的弁証法の立場において読んでゆくことで、サリバン女史がヘレン・ケラーをどのように見て、どのように働きかけたのか、を、自分自身がその場で指導者であったなら同じことができたであろうか、とわが身に捉え返して考えていってほしいのです。



ここで念のため、すこし確認をしておきましょうか。わたしが先ほど、
「目の前の人物のあり方に問題がある場合に、いかにして働きかけるのか」
と述べた時に、アレ?と感じたり考えたりした人はいないでしょうか。

たとえばこんなふうに、です。
「『問題』と言っても、見る者によってどこをそういうものとして見るかはずいぶんと違うではないか」とか、
「『働きかける』といっても、結局のところ子どもの主体性に任せるのが最良ではないか」といった意見がそれにあたります。

こういった考え方は、一見すると常識的かつ穏当・良識的なもののように映るのですが、いざこれらを実践のための指針とする段になると、その過程・結果において、どうしても問題が起こってこざるを得ないという現実が待っているのです。

これらがなぜダメなのかは、サリバン女史の認識をわが身に捉え返しながら本書を読むことを通して、次第しだいに明らかになってゆくことではあります。

ここでは結論から簡単に述べれば、わたしたちが育てる対象は、決してサルではなく人間でなければならないのであり、そうであるからには、「人間とはどうあるべきか」という原則を絶対に持たねばならないのであり、またその原則に照らしてこそ対象が鮮やかに見えてくるのであり、さらにそれに従って相手を導いてゆかねばならないのだ、ということなのです。

それでも、そんなものは大人の勝手な言い草で、子供はとにかく自由に振舞わせるべきであり、食事だけ与えておけば勝手に育つものであり、それが最善である、といった反論が出てくる場合には、そもそもの目指しているレベルが違うのだ、と言わねばなりません。

自分が指導した人間が将来的に、誇るべき人格を持ち得ないような人物に育ってしまったり、果ては救いようのない理由で犯罪を犯したり、歪んだ人間観の持ち主となった場合に、「あれは生まれつきおかしかったのだ」と言い訳をすればよいと考えている、人を育てるということを「そういうレベルで捉えてしまっている」のであれば、やはりここで強調していることは、同じレベルでは把握してもらえないことになるでしょう。

もしそれでも、どうしてもこの穏当・良識的な考え方で指導論を展開したいという場合には、もし仮に、その考え方でヘレン・ケラーの教育にあたったとしたら、あなたのもたらした結果が、サリバン女史の達成とはいかにちがったかたちとして現象したのか、と考えてみられることは決して無駄ではないと思うのです。

このことは、ここまでの記事、最低でも今年に入ってからの記事を、先入観なしに読んできてくださっている方には基本的な方針としては理解してもらえることと思います。

ともあれ、賽は投げられました。
他の記事をはさみつつ、長い道のりになりますが、倦むことなくともに歩んでくださるようお願いいたします。


(2につづく)

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