2012/02/04

【メモ】岩波文庫版『ロダンの言葉抄』 (2)

学生さんに伝えるために読みなおしてみたら、


ロダンのことばに他でもない自分がいちばん引きこまれてしまいました。

というわけで、つづきの覚え書きも公開することにします。

わたしが学生のみなさんに伝えたいことというのはとてもシンプルで、「本質を見よ」ということだけなのですが、それが一言ではとても伝わらないからこそ、こうやって手を変え品を変え文字を書き散らしたり口角泡飛ばして散歩しながら長々と講義するはめになっているわけです。

それでもそのことに倦んだりはしないのですが、あんまり繰り返すと要領の良い学生さん相手では効き目が薄くなってきますから、巨人の力を借りましょう。

◆◆◆

実のところ彫刻家ロダンも同じような感想を持っていたとみえて、いろいろな表現を使ってはいても、本質的にはひとつのことを伝えようとしているふうに映ります。
以下のメモ書きでは、直接的な表現においても重複している箇所がありますが、あえてそのままにしてあります。

余談ですが、読者のみなさんは物心つくころ、外に出かけるときになると必ず家の人が、「クルマには注意しなさい」というふうに何回も何回も、それこそ耳にタコができる、というほどに聞かされてきて、いいかげんうっとおしい、とちょっと思ったことはありませんか。

お母さんのことばを振り払うようにして家を出て、門を出るときには自分がちゃんとクルマに注意できていることを確認すると、「ほらちゃんとわかってるじゃん」となおさら確信が高まったとしましょう。

ところで、それはどうしてしっかりと「身について」、当たり前のように「わかった」のでしょうね?

それが、量質転化のはたらきです。

原典に当たる時間がない人は、わたしが引用した箇所でさえも、ロダンが繰り返し繰り返し違った表現で(量質転化を意識して)述べていることを見て、彼が伝えようとしていることを我が身に捉え返すようにして学んでください。


◆ジュディト クラデル筆録(つづき、p.37-173)◆

p.49 「地上はすべて美しい」、「汝らはすべて美しい」
「(「顔の壊れた女はそれでも醜悪でしょう」という問いに答えて)――さよう、しかしその女が情人といっしょにいると、美しくなります。その美は性格の中にあるのです。情熱の中にあるのです。鈍い大女をご覧なさい。もしその女の子供が死んだと告げたら、その顔を攪乱する恐怖や、苦痛の激動が無比に美しいでしょう。/美は性格があるからこそ、もしくは情念が裏から見えて来るからこそ存在するのです。」

p.59 世界は美しいがみなが気づくとは限らない
「世界は美しいもので満ちています。それの見える人、眼でばかりでなく、叡智でそれの見える人が実に少ない!」

p.65 真の芸術家に必要なもの
「真の芸術家は造化の原始の理法に透徹しなければなりません。彼は美を合点する事によってのみ天才になります。敏感性のだしぬけな電光によってではありません。のろくさい洞察によってです。賢明なまた辛抱な愛によってです。」

p.80 芸術に求めるのは写真的な真ではない
「今日の青年芸術家は何も解らない。昔の装飾や図案を飽きるほど模写する。そして貧寒至極な様子にまねて、まるで意味を失わせてしまう。昔の人はその図案を自然から得た。彼らはその手本を庭園から、菜園からさえも見いだした。彼らはその霊感を源泉から汲んだ。玉菜の葉、クローヴァ、薊(あざみ)、茨というようなものがゴティック柱頭の画因(引用者註:モチーフ)である。われわれが芸術に求めなくてはならないものは、写真的真ではなくて、生きた真です。」

p.80 実行家
「私は美文家ではなくて、実行家です。」

p.100 芸術を会得するために
「君たちが芸術を会得する事を知るに至るのは分析によってではない。」

p.107 真の芸術家に必要なもの
「真の芸術家は創造の原始的原理に透徹しなければならぬ。美しきものを会得する事によってのみ彼は霊感を得る。決して彼の感受性の出し抜けな目覚めからではなく、のろくさい洞察と理解とにより辛抱強い愛によって得るのである。心は敏捷であるに及ばぬ。なぜといえばのろい進歩はあらゆる方面に念を押す事になるからである。」

p.107 私の目指してきたもの
「私は自分の全生涯を傾倒して、おん身たち(引用者註:中世ゴティック芸術の建築家たち)が互いに伝達し合ったところの経験の秘訣、規則の一瞥をでも補足しようと努めた。そして私がどうにかこうにか美の綜合を把握しかけた時は、すでに私の命数が数えられる今日となってしまった。誰に私の探求の果実を信託しよう。ある未来の天災がそれを纏めるだろう。本寺(引用者註:カテドラル)は永遠である。天空に向って立つ。その極限の高さに達してしまったとわれわれが考える時、本寺はまたもその上へ高く聳えている。真理の山嶽のように。」

p.114 ゴティック芸術の精神
「面の知識と、量の権衡と、及びくりかたの比例とが、ゴティック芸術の精神を支配していた。」

p.114 くりかたの比例は自然の中に隠されている
「くりかたの比例は自然の中に存在する。けれどもわれわれにはまだそれを規則の中に当てはめる事の出来ないような形で存在する。これらの比例の調和を把握してそれを彫刻に表現する事は、確然たる趣味の人、最も理解力ある人を要するのである。ゴティック建築家は彼らの心をもってすると同様にまた彼らの叡智をもってくりかたを会得したと言えるのである。」

p.116 芸術とは
「自然のみ幸福を与える。そして私が芸術と呼ぶのは自然の研究である。解剖の精神を通しての自然との不断の親交である。」

p.116 自然を深く見よ
「深く見かつ感ずる者は自分の感情を表現する慾望、芸術家たる慾望を決して失わない。自然はいっさいの美の源ではないか。自然は唯一の創造者ではないか。自然に近よる事によってのみ芸術家は自然が彼に黙示したいっさいのものをわれわれにもたらし得るのである。」

p.117 芸術家が美を発見するとき
「芸術家が美を発見しまた表現するのは審美学の小冊を読む事によってではない。自然そのものにたよる事によってだ。」

p.117 醜悪なのは何か
「絶えず私は聞く。「何という醜悪な時代だ。あの女はつまらない。あの犬はぶざまだ」と。醜悪なのは時代でも女でも犬でもない。諸君の眼だ。眼がわからないのだ。人は一般に自分の会得以上のものを悪く言う。悪口は無知の子供である。そのことを発見するや否や、諸君は喜びの圏内に入る。」

p.118 自然を見よ
「主題は至るところにある。自然のあらわれはことごとく主題である。芸術家よ。ここに立て!これらの花をスケッチしたまえ。文学者よ。それを私に書き示せ。いつでもやっているような、一塊としてでなく、その機官の驚くべき綿密さを、動物や人間の戸同様に変化多いその特性をである。同時に芸術家であり植物学者である事、研究すると同時に画きまた塑造する事の美しさよ!あの偉大な写実家、日本人は、これが解っている。そして植物の知識と栽培とを彼らの教育の基礎の一つとしている。」

p.120 対称釣り合いの大法則(=対立物の相互浸透)
「神は対称釣り合いの大法則を作った。善と悪とは兄弟である。がわれわれは自分たちを喜ばすところの善を欲して、われわれに誤りと思われるところの悪を欲しない。われわれがある距離を隔てて事物を考える時、悪が折々善と見え、善が悪と見える事はないか。それはただしかるべき考察をもって判断しなかったからに過ぎない。ちょうど素描に白と黒とが必要なように、善と悪とは人生に必要である。悲しみは棄て去るべきではない。」

p.120 自然を会得するには
「自然を会得するに肝要なのはわれわれが決して自分たちを自然の代用としない事である。」
(自分の理想について語る芸術家は、モデルを訂正するつもりで調和した全体に手を入れてめちゃめちゃにしてしまう。)

p.124 批評家や先生が説明出来ないこと
「芸術は実際やっている者からの外は教えられるはずのものでない。」

p.126 私の生涯はどういうものか
「私の生涯の大事はこの一般的平たさから逃れようとして持続した争闘である。私の彫刻のすべての成功はそこから来ている。」

p.129 芸術にとっての定法
「定法が芸術を作るのではない。芸術家の経験が定法を生み出すのだ。もし自然を定則とせずに棄てたら、もし一つを他のものによって絶えず力づけてゆかないなら、われわれはたちまち意味のない言葉を語るようになる。」

p.139 対象の色彩は造形の中に止揚されている
「肉づけこそいのちを表現する唯一の道である。そしてただ一つの事が彫刻においてまた建築において肝腎なのである――いのちの表現が。美しい彫刻、よく作られた建築物は生物のように生きている。日と時間とによって違ってみえる。単に面の調価だけの事で、陰と光との取扱いひとつで、生きた自然物の色、女の肉体の色と同じ色の魅力を石に与えることは何という美しい事だろう。造形美術においては、美しい皮膚の色が人体における健康を語るように、色調が面の特質を暗示する。」

p.140 単純と貧寒の決定的な差
「単純は完全である。貧寒は無能である。」

p.152 仕事から学ぶ
「変化ある手業を獲得する無数の利益と有利とに注意を喚ぶのです。彫刻と素描のほか、私は装飾陶器、金銀細工、というように、いろんなものに仕事しました。私は自分の教課を物自身から学んだ。そしてそれをそれぞれ自分自身で適用しました。この原則に忠実である事によってのみ、人は会得も得、また如何に仕事すべきかを知る事が出来ます。私は一人の職人です。」


(ジュディト クラデル筆録 了)

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