2011/10/15

革細工と趣味の考え方 (4):完成した自転車フロントバッグG2

(3のつづき)


前回までは、ひとつの目的を達成する道具について、そのとりうる形態がどのように絞りこまれてゆくかの過程を考えてきました。

自転車用のフロントバッグは今回で第2世代目になったので、前回のものと比較して整理しておきます。

年内いっぱいまでは毎日時間を作って革細工に取り組んでいるので、わたしに何かを作成依頼しようと考えている読者の方は参考になさってください。

G2(コンチョなし)とG1。
前者がハーマンオークレザー、後者がハーマンオークハーネスレザー。
色見が結構違いますね。性質もまるで違い、G2の方は、曲ってもすぐに戻ってしまうので、素手では形を整えられません。ほんとうに革が硬くて大変でした。
もう二度と縫いたくないなあ…
といいつつ数日後にはまたやってるのは、旅も革細工も同じでしょうか。
◆◆◆

以下の写真は、オーナーが送ってきてくれたものです。

コンチョはニュージーランドのコインをもとにしており、鳥のキウィが描かれています。
「キウィ」というモチーフを元にして、ベルト部分にフルーツのキウィの断面をあしらいました。
市販のバッグのベルト部分は、「いかにも縫いつけました」という縫い目がついていますが、わたしとしては機能面だけをまるだしのままではみっともないと思うので、機能をデザインと統一させて必然性を持たせています。

金具の色が違うのは、上前方から下後方に向かってグラデーションをつけたかったからです。
写真では見えませんが、ベルトの下の金具はアンティーク色になっており、
コンチョ(シルバー)、後方ベルト(ゴールド)、前面ベルト(真鍮)に続いています。

スタンドで立てており後ろのタイヤが浮いているのでわずかに崩れていますが、実際にはフレーム部のトップは水平になっています。(ホリゾンタルフレームといいます)
バッグの高さをハンドル部よりも下にすることで、水平性を保つようにしてあります。
サドルバッグを作るときにも、それを維持するように考えてゆけばよさそうです。

オーナーの強い希望で、天板に取っ手はつけませんでした。
マップケースなどあれば、iPadを入れてマップなどを表示すればかなり便利そうです。
わたしだけで判断していたら取っ手をつけていたような気がしますが、こう見ると無いほうがすっきりしていて全体の調和を乱すこともなく、正解でしたね。
取っ手が無いので持ち運びの際には抱きかかえるようにせねばなりませんが、普段使いの鞄ではないのでかまわないようです。

ずいぶん日焼けしたので、ベルトの下とは色が違っています。
ボトルケージに貼った革も同じものです。
◆◆◆

このフロントバッグは、先週末のツアーを目指して作っていたのですが、必要な金具が1ヶ月以上も届かず作業が進められませんでした。それでもなんとか間に合ってほっとしています。

金具を待っている間に設計を練りなおしたり下処理を丁寧にできて完成度が上がったと思うので、怪我の功名でしょうか。

オーナーはずいぶん気に入ってくれて、革細工の備品まで送ってきてくれました。


誰かに依頼されてものづくりをするときに、その作品の質を決めるのは、結局のところ、「どうしてもこういうものがほしい!」、「ここはこうしてほしい!」という、オーナーの熱意やこだわりです。

道具というのはそもそも、人間が自然と向い合ったとき、それをなんとしても乗り越えようとする強い目的意識があってこそ創り上げる必要性が生まれるものです。

いわば、目的意識なくして道具なし、ということなので、対象と強い目的意識をもって取り組めば取り組むほどに、必要とする道具の像は明確になってゆくのです。
像が明確になるということが、最終的に用途にふさわしい形態を与えることになり、そこに論理的な必然性が出てくるわけです。

ですから作り手は、オーナーと議論しながら、その目指すところを隅々まで汲み取ってものづくりをしてゆきます。
人間の認識のあり方に興味のあるわたしにとって、「なんでもいいから適当に作ってくれ」という依頼はあまりにつまらないので、オーナーが本当に欲しいものを明確にすることのできる方向へ話をもってゆきます。
もっとも今回は、もとからオーナーの欲しいものがはっきりしていたので、そんな工夫も要りませんでした。

オーナーとの共同作業で良いものができると、行程がどれだけに大変な作業であっても、「早くまたやりたいな!」という思いがこみ上げてきます。

そういうわけで、この流れにはまだ続きがありますので、記事を分けて書いてゆきましょう。

それにしても今回は、楽しい仕事でした。


(了)

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