2011/10/15

今週の革細工:自転車サイドバッグ

今週はほとんど更新できませんでしたが、


待機中にも手を動かしていました。

感情に強い揺さぶりを受けたときにどう対処するかというと人によって違いがありますが、わたしの場合には、なにも考えられなくなるほど身体を動かします。
それが叶わないときには、創作活動に限ります。

現代病と言われるうつ病は、大きく言えば自然との反映が崩れていることによる不調であり、構造をのべれば相対的な独立が度外れに進みすぎていることによって起きています。
もっとも社会性も原因の一つですが、常に何らかの手作業を強いられていたり、ほころんだ服を修復する必要のあった時代にはうつ病というものが表立っては存在していなかったことを見れば、どのように対処してゆけばよいかを考える端緒につくことができます。

ともあれわたしはいつも動き回っているので、そうなる暇自体がない気もしますけれども。

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そういうわけで今回取り組んだのは、自転車用のサイドバッグです。

よくあるサイドバッグ。

先週末にツアーに行ったところ、前回の記事で作ったフロントバッグが思いの外好評だったようなので、今後のためにも、自転車に関する革細工は全面的に試作しておくのがよさそうだということになりました。
前回のバッグを作るための金具を取り寄せているあいだに構想はふくらませていたので、実作業にはすぐに取り掛かることができました。

上の写真が典型的なサイドバッグですが、わたしにとっていちばんの問題は、「常用できない」ということです。
取り外すのも面倒なら、取り外しても変なところに取っ手があるので持ち運ぶときには一歩ごとに足に当たってきます。

そういうわけでとりあえずの目標は、「普通の鞄として使えるサイドバッグ」でした。
そしてたどり着いたのが、Herz(ヘルツ)という革鞄ブランドのこのモデル。

Herzの某屋根かぶせバッグ。
このブランドのバッグは、わたしもいくつか持っています。
天井部に革でつつんだ木の棒を備えている棒屋根式のバッグなら、通常なら型崩れをふせぐためにスチール板を入れ込む必要のあるサイドバッグとしても十分使えそうです。

見れば、ベルトを緩めることで容量も増やせるので、これまでのバッグづくりで機能的に入れ込んでいた「普段は小さく、一時的には大きく」できる容量の可変性も実現できています。

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自転車のキャリアとにらめっこしてしばらく検討してみましたが、バッグが手元にないことにはどうにも想像しにくいところが多すぎて、考えるのにもつかれたので、とにかく手を動かすことにしました。

普通のバッグを備え付けるという発想で作られたサイドバッグが皆無であったことと、
わたしの技術が市販されているそれに追いつけるのかがわからなかったのです。

こういうときには、とにかく行動して、失敗から学ぶに限ります。

そうしてできたのがこれ。
作業時間は30時間ほど、裏地からの縫い付けが極めて困難なので、次のモデルはもっと“手抜き(本当に手を抜くわけではないですよ、行程を見なおして効率化するということです)”したいところ。

意匠はいつもの調子ですね。
モチーフは、「狼」と「ブラック」です。
基本的に目的を満たす範囲内で、変える必要のないところは先達の作品のままです。
自転車に備え付けやすいように、背中側が垂直になるようにしてあります。
前面と背面のバランスが悪くても、棒屋根に取り付けたO型のリング(丸カン)が重量の偏りを均してくれます。
丸カンはキャリアに装備するときにも有効に作用するはずで、ますます自転車向きですね。
ほんとうに変えるところが少なかったです。

内側の手前側は、切りっぱなしの革の断面が手に当たるとざりざりして不快なので、折り返して縫い合わせ。
型くずれを防ぐための工夫でもあります。

ベルトを緩めると側面が広がり、典型的なサイドバッグの形状に近づきます。
こうすると、容量は一般のサイドバッグよりも大きいほどです。
通常時でも、A4のノートだけでなくA4書類を入れるバインダーが入ります。

蓋の横にある耳を出っ張らせたのは、側面が必要以上に内側に入り込まないようにするため。
正面からの写真を見ると、蓋の部分がここにひっかかって
全体としての形を維持しているのがわかってもらえると思います。
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サイドバッグとして使い勝手はどうでしょうか。

丸カンにベルトをとおして固定。
丸カンのおかげで取っ手が手前に倒れるので、バッグをキャリアの天板ぎりぎりに固定するときにでも、
上部に荷物をくくりつけるのに邪魔になりません。
ほんとうに、自転車のために設計されたようにしか思えませんね。
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今回は、技術的に本当にできるのかがわからなかったので、とりあえず全体としての形を完成させることを優先したため、取り付ける方法についてはあまり深く考えませんでした。
裏面や底面もまだすっぴんのままです。

とりあえずこれで仕事に行ったり自転車にくっつけて外を走りまわってみて、欠点を洗い出してゆきます。

1m以上の革が取れずに肩掛けベルトが作れなかったので、
家にあったアクリルに革を縫いつけてベルトにしました。ベルト調整機能もなし。
余計なものをつけていないので革鞄としてはとても軽く、800gを切っています。

蓋を閉じたままでも側面が開けられるので、
肩掛けベルトをとりあえず突っ込んで自転車に乗ることができます。
◆◆◆

前回までで、何回かバッグを作ってみてわかったことは、「試作品は、一般的に作るべき」である、ということです。

たとえば、それがバッグであるなら取っ手をつけておく、自転車用のバッグであるならフロントにもサドルにも備え付けられるようにしておくなど、用途にふさわしい機能をすべて盛り込めるようにしておくべきだということです。

どんな工業製品をみてもわかるとおり、つづく作品にあたらしい機能を盛り込んだとたんに元のコンセプトが崩れてしまうことがありますが、試作品の間に、一般的に必要とされるであろう機能を想定するか、実際にあらかじめ盛り込んでおくと、つづく作品でも新しい機能の実装がしやすくなります。

(※学習の進んだ読者のみなさんへ
ここで「機能を想定する」ことと、「実際に盛り込む」ことは矛盾するではないか、という意見が表面的な見解であることはわかりますか。
ある機能が必要であることを認識したうえで、「あえて」それを盛り込まないことを決定したというならば、その形態のなかにはありえた形態が止揚されているので、あとで取り戻すことは容易なわけです。
また、ここの「あえて」の論理構造が弁証法のどの法則かはわかるでしょうか。


作品の本質として「基本はシンプルに」というスローガンがありますが、あれはただ単に形を簡単にすればよいというものではなくて、あらゆる用途を想定した上で、あえてそれらを削ぎ落してシンプルにしなければならない、ということです。
ヘーゲルが有限と対立させただけの無限を「悪無限」と呼び、有限をふくんだ無限こそ真の無限であると言っていたことを確認してください。
それになぞらえて言えば、世の中には「悪シンプル」と呼ぶべきものがとても多いことに気付かされます。
世にある凡庸な商品を作り続けてしまう企業は、要すれば論理性が低いのです。)

前回作ったフロントバッグ、G1からG2の流れは、一般化ではなくむしろニーズに合わせた「特殊化」だったので、機能を減らして研ぎ澄ませることが容易でした。

あれがもし、試作品の段階から特殊性の高いものをつくっていると、ニーズに合わせた実装ができなかったでしょう。

◆◆◆

今回作ったものが前回と違うのは、そもそもサイドバッグとしての一般性を取り出すためのバッグである、ということです。

言ってみれば、試作品よりもさらに手前の段階である、ということですね。

そうしなければならなかった理由は、「常用に耐えうるサイドバッグ」がまずもって存在しない、という状況から歩みを始めねばならなかったからです。

実験の結果、変える必要がないということであればこのままでいけるかもしれませんが、原型を留めない形に変えてゆくことになるかもしれません。

ともあれ、ここからはじめねばなりません。
机の上で考えてできることは所詮ここまでが限界ですから、実践あるのみです。

◆◆◆

ところで、サイドバッグは2個セットが基本ですので、対になるバッグの原型もすでにあるのでした。

写真のうち、今回作ったものは狼をモチーフにした下の「ブラック」です。
うまくいけば、鷹をモチーフにした「ホワイト」まで辿り着くことができます。


さて、どうなるでしょうね。

1 件のコメント:

  1. 初めまして、拝見させていただきました。
    「よくあるサイドバック」との表記で貼られた画像の詳細を知りたいのですが、これはご購入されたものでしょうか?それともご自身で作られたものでしょうか?
    もし、作られたものでしたら、型紙をお譲りいただきたいです。また、ご購入されたものでしたら、ショップの詳細を教えていただきたいです。

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