2011/06/22

デザインにおける弁証法 03

(02からのつづき)

前回では、機能とデザインの適切な妥協点は、「実践の必要性」によって導かれる、と書いた。



上では、自分の実践の必要性を念頭において、レトロな自転車バッグの写真を批判的に検討しながら、改善すべき点を洗い出してきた。
上ではたんに、ストラップというもののあり方においての考察であったが、それをバッグの大まかな形状についても考えてみる。

実践の必要性を考えると、わたしの場合は、常に書籍を持ち歩いているから、常用に耐えうるバッグをつくるためには、書籍数冊と筆記用具が入ることが望ましい。

今回は、サドルバッグ/フロントバッグ/常用しうるバッグをつくることが目的であるから、そのうちのフロントバッグのための条件をみたすためには、バッグの横幅が左右のハンドルの間に入り、ブレーキを持つ手と干渉しないことが上限となる。


またふつうのバッグとして常用しうる形状を考えると、サドルの下の空間を使おうとするような台形型は、なんともゴツゴツしたものに映る。

一般的なサドルバッグ(台形型)を人間が背負った図。

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こうして、「実践の必要性」に照らしてイメージするだけでも、どういう形状にするか、どういうサイズにするかなどは、ほとんど自然に、とても合理的に導き出せることがわかる。

一般的に人間の創作活動というものを論じるときに、制限こそが創作の母だと言われることがある。
その理由はと問えば、目的意識がなくては制限がうまれようもないからであり、目的意識は、強い実践の必要性に照らすからこそ生まれているからである。

ここでいう「制限」ということばのなかに、「限られた素材から取捨選択しなければならない」という消極面と、「目的意識に従って形状や大きさが規定される」という積極面が含まれていることを、一般には意識できていないから、的外れに制限をありがたがる、という風潮が生まれるのである。
ところがこの場合のそれは、制限というよりもむしろ、与えられた環境とでも言うべきものだから、その実態は結局のところ、与えられた環境を実践の必要性に照らしてみる、という上で述べた一事に解消してもよい。


さて以上のことを踏まえると、形状とサイズは以下のようになりそうである。
奥行きよりも縦のほうが少し長い直方体。(以下、単位はmm)

これらには、ストラップの機能の切り離しが盛り込まれている。

◆◆◆

わたしの持ち歩きたい本のフットプリントは210×150であり、縦に収納する形になるから、背表紙を確認しながら取り出せる形になっている。

この点では、常用のバッグの条件を満たしてはいるが、280×160×140=6.27リットルでは、数泊するにあたっては心もとない容量である。
しかしこれ以上に大型化してしまうと、荷台を装備しなければタイヤと接触することになるから、単に大型化することではなくて、他の方法を考えねばならない。

そこで考えたのが、隠しフラップである。

こうすることで、常時は折りたたんでおき、必要なときに条件が整っていれば容量を拡張できる仕組みにすることができる。

無理のないやり方で、「あれもこれも」と考えることが、創作活動において前進するための基本的な考え方である。

今回の工夫をしたことによって、他にも切り離せない要素が加味される。それらは以下のとおりである。
・フラップによって、正面の型くずれを防ぐ。
・フラップのぶん、重量が増えた。

「あれもこれも」という考え方をしたときには、そのこととは切り離せない関係として、どういった要素が減ったり増えたりしているのかをしらべ、それが実践の必要性という観点から見て適切かどうか、という視点で確認しておくことが望ましい。

◆◆◆

またこのことが、バッグの形状に与える変化は少なくない。

というのは、フラップを引き出したときには、ストラップの長さを変えることができなければ、蓋を閉めることができなくなるからである。

ここの矛盾も、「あれもこれも」という考え方で解決することができなければ、これまで考えてきた隠しフラップの仕組みそのものを諦めざるを得ないわけである。

そうするとストラップには、どのような工夫を盛り込めばよいだろうか。


(04に続く)

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