おおまかな考え方の話は以上で触れてきた。
実のところデザインというものも、世の人がいうほど、天の才に頼り切った営みではないのだ。
長く世に残るデザインを残す人ほど、「死に物狂いの勉強」をとおして、自らが作り上げてゆくものの一般性、つまり「バッグとはどういうものか」、「絵画とはどういうものか」、「彫刻とはどういうものか」などといった概念の像を明確に把握しているものである。
それだから、「新しいアイデアは既存のアイデアの組み合わせに過ぎない」といわれたりもするのだが、この把握はひとつの「考え」を、単なる思いつきレベルで捉えているにすぎないところに問題がある。
新しく優れたアイデアというものは、なにも既存のアイデアをいいとこ取りしたわけではない。
それらを、論理性をもって噛み砕き自分のものとして再構成、再創造するところに要点があるという事実をわすれてはならない。
(了)
以下は、写真と解説。
◆◆◆
さて語るべきことは尽きないが、以下では写真を見ながらどうやってモチーフを整えてゆくべきなのかをともに考えてみよう。
実際に使ってみると手直ししたいところも出てくるであろうが、とりあえずの完成度はまあまあかなと思っているもので、ご笑覧いただければ、幸い。
↑製作途中。蓋の部分は直線にすると、経年での湾曲が目立つのと、強度が確保できないことから、フクロウの嘴のつもりで曲線をつけた。
またストラップを単に縫いつけただけだと、あからさまな縫い目がついてしまうので、フクロウの目の位置に「盾」の形のエンブレムを作って、そこにストラップをとおすことで縫い目を目立たなくした。
蓋の下にあるヒネリの受け手は、一旦、盾の中央にあるエンブレムの形の革に縫いつけた後、改めて本体と縫い合わせた。こうすると、裏側に出た金具によって、内容物が傷つくのを防ぐことができる。
↑今回使った盾のモチーフは、セント・ジョージとおぼしき盾。よくある形である。
↑ところが、真ん中にたまたま見つけた「五十銭のコンチョ」を付けたくなったから、西洋・東洋が入り交じった世界観になってしまった。ここらへんはもはや理由付けができない。率直に言って、なんとかそれなりに見えるようになってほっとしているくらいだ。もっと大きなモチーフをしっかりと決めてから創作すれば、より統一感のある世界観にできるだろう。
↑製作途中。はじめに一枚の大きな革を切り取って、ぐるりを作ってしまう。立体にした後各種のパーツを付けることはできないからである。革工作は、作る順番をあらかじめきちんと決めておくことがどうしても必要であり、つくってゆくうちに大きな番狂わせがあるという意味で、旅にとてもよく似ている。旅が好きな人は、番狂わせも愛するものである。
↑側面をつけたところ。縦型のエンブレムが、蓋の正面部分の形を整えるのにも役立つことになり、思っていたよりもはっきりとした箱型になった。結果としていちばんはじめに載せた、わたしが憧れている古いバッグに近い雰囲気になった。ここらへんは、いくら紙で試作をしてみても、実際に革という素材で作ってみないことにはわからない。作りかけの丸っこい形のほうが好みだ、という人もいると思う。
↑側面にはなにも付けなかった。ポケットの付いているものもあるけれど、フロントバッグにしたときに手に触れてしまって具合が良くないからである。
↑背面のストラップ穴にも盾のモチーフ。上に2つある金具Dカンには、盾の曲線を使った。
上部には、常用に耐えるように革のフードをつけた。革の端が手に喰い込むと、使い心地が悪くなるからである。常用のカバンとして、肩掛けベルトのためのDカンを付けようかなとも思ったが、さすがにうるさくなるのでやめた。
写真には載っていないが、底面にもキャリアとの固定用のDカンがある。
↑常用でいつも使う本と文房具が、縦に入る。背表紙が見えるから、選んで取り出すときも便利である。これは縦型にして正解だったと思う。写真はフラップが開いているけれど、もちろん閉じている状態でも入る。
↑フラップを開けると、一眼カメラの保護ケースが入る。注文したのは「ジンバーレ カメラケースS」でオレンジのはずだったが、届いたのはブラック。こういうところが異様にいい加減なところも、自転車用品市場らしい。こういういい加減さで、ブランドが恐ろしく傷つくのがわからないのだろうか。クレームものだと思うけれど、よく考えたら身の回りにオレンジが多すぎるし、実用性には問題がないので返品せず。
↑フラップを開けるとiPadも持ち運べる。縦にすればMacBook Airの11インチも入らないことはない…かもしれないがたぶんやらないだろう。
↑フラップをフルに使うとこんなふう。なんか…ムーミンに出てくるニョロニョロを思い出してしまった。2泊3日用の装備を入れてみたけれど、あまり膨らまなかったので、ヘーゲル全集も入れてみたのがこの姿。
↑横から荷物が落ちないように側面のフラップを使う。しかしここまで無理にものを入れることがあるのだろうか…。
◆◆◆
デザインの面で反省点があるとすると、やはりモチーフにしたものが多すぎるということである。このバッグの細部をよくしらべると、「フクロウ」、「西洋の盾」、「五十銭に描かれた菊花紋章」、「五十銭に描かれた鳳凰」など雑多なモチーフが使われている。人に頼まれて同じようなものを作るときには、これらを前もって意識しておけば、さらに統一感のあるものができるはずである。
ここにはもっと良いものを作れる余地があるわけで、今から楽しみである。
さてほかに機能面といえば、あとは実際に自転車に搭載してみて、どのくらいの使用に耐えられるかの耐久テストが待っている。そのあたりは、また後日。
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