2011/06/23

デザインにおける弁証法 04

(03のつづき)

前回では、バッグの容量を拡張できるようにするのと直接に、短期間の自転車ツアーにも対応するべく隠しフラップを追加するところにまでたどり着いた。


ところが、中の荷物が膨れることになれば、固定式のベルトのままでは蓋が閉まらなくなる。

これはどう解決すればよいだろうか?

◆◆◆

ストラップの長さを変更するために、わたしたちが身につけている服飾用のベルトによく使われているのが、「バックル」である。

バックル
これならば、荷物が増えてもベルトの長さを調整するには困らないであろう。
しかしバックルを採用すると、荷物が増えたときという「特殊な状況」のために、荷物を出し入れするたびの「普段の使い勝手」に支障が出る。

わたしたちがズボンのベルトをさほどおっくうに感じないのは、それが衣服を着るときと脱ぐとき、ほぼ1日に数回しかそれを開け閉めしないからであるが、バッグともなれば、一桁違う開閉回数になってくる。
だから、バッグにはよく、「ヒネリ」と呼ばれるワンタッチの開閉部品が採用されるのだ。

ヒネリ
もしここで蓋の開け閉めが面倒なままであるなら、はじめに立てた道具の使用の際に「ユーザーに努力を強いないこと」、という原則に反するわけである。
一番初めの記事で取り上げた「ブルックス レザーミルブルック」は、頻繁に開け閉めをするというユーザーの用途を想定していないという意味で、気に入らなかったわけである。

そうするとわたしの実現したい内容を整理すると、以下のようになる。
・ベルトの長さを変えられるようにしたい。
・ワンタッチで開け閉めしたい。

こういった、一見すると相反する要素を、「あれもこれも」両立させるためにはどうすればよいだろうか。

◆◆◆

今回はそれを解決するために、従来では一つであった部品を、あえて2つに分けた。

ものごとには、従来のやりかたを力技で押し通すよりも、一旦遠回りをしたほうが、かえって近道だったりもするものである。

そういう「急がば回れ」のやり方を、今回は採用した。


右側でバラバラになっているものを組み合わせると、左のようになる。
部品をわけたことで、荷物が増えたときにだけ固定式のバックルを調整して長さを合わせればよい、という機能をもたせた上で、あくまでもワンタッチの開閉式を実現したことがわかってもらえるだろう。

というわけで、最終的なデザインはこうなった。

いちばんはじめに挙げたレトロなバッグに、使いやすい機能を盛り込んだ形に落ち着いた。

◆◆◆

わたしは、良いデザインには論理性があるというお題目を上げて、そこには弁証法が働いているから、「あれもこれも」という考え方が大事なのだと言ったけれど、それはなにも、あらゆる機能を一つの部品であれもこれも実現できるようにすべきだ、などと言っているわけではないこともわかってもらえると嬉しい限りである。

あくまでも、「実践における必要性」というユーザーの立場にたった結果としての利便性を実現するために論理を使うのであって、創作過程に発揮した自らの論理性を、ユーザーに押し付けるようなやり方を用いてはならない。

設計思想がいくら洗練されているからといって、使われている技術がいかに高度だからといって、それらと直接に使い勝手がよくなるわけではないことは、わたしたちはあらゆる製品を使うことから学んできているはずである。

◆◆◆

わたしが今回、どのように考えてきたのかは、ほとんどが以上のことのような判断の結果でしかない。

気軽に読めるはずのデザインの記事にまであまりくどくどと説明をつけるのも無粋なので、以下では写真を見ながら、細部のモチーフをどう工夫すれば、見た目での必然性や合理性が確保できるかを追ってゆこう。


(04につづく)

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