2012/05/09

デザインの世界観をいかに継承するか:G2R "BLACK KIWI" (4)

GW前までの連載で、


デザインの世界観を継承するにはどうすればよいか?という問題を、G2Rという実例を上げながら考えてもらいました。

わたしたち人間が持っている認識のあり方には、経験から得た具体的な個物の像の共通点を総合するとともに抽象化する、という働きがあります。

この「抽象化」という働きは、一定の一般性を持っています。
しかし高度な実践を行う際には、それが対象としているものによってあらわれる特殊性についても、しっかりと掴んでおかねばなりません。

たとえばわたしたちは、コリーやプードルやバーニーズマウンテンドッグの像を抽象化して「犬」という概念を観念的に持つことができます。
そうして、その「抽象化」という働きを、観念的な技術として適用することによって、スコティッシュフォールドや三毛猫、アビシニアンという個物からある像を持ち、それを「猫」という概念で整理することができます。
そしてまた、いったん持った像を用いて、新しく出合った個物がどの概念に属しているのかの判断をすることができるようになってゆくのです。

ところでこれらの概念と抽象化という技術がいかなるレベルのものであるかは、「ペットを選ぶ」などという実践的な必要性によって規定されているのであって、これがたとえばあなたがブリーダーであったり、生物の生態学者であったり、今回のようにデザインモチーフとして採用する場合などには、それに応じたレベルが必要とされてくるわけです。
(一般化・抽象化は、実践的な必要性に照らして規定される)

わたしたちは今回、生き物の身体の作りから学んで、抽象化という認識における技術を目的的に高めることによって、前作G2の精神的な継承を試みました。

そうして最終的に目指したのは、フロントバッグはフロントバッグで、リアバッグはリアバッグでそれとして成立していながら、両者の母体となる自転車を含めた全体として、ひとつの調和を作り上げることにあったのです。
それが成功しているかどうかは読者の批判を仰ぎたいところです。

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まず前面から。


前作とあまり変わりがないように見える前面部ですが、ここを作る際には課題が少なくありませんでした…


…というのは、フェイスの下部、ベルトよりも外側の部分について、少し切り欠きを作ったので、内蓋の開閉部分を工夫しなければならなかったからです。

内蓋は蝶番式になっていますが、蝶番部がフェイスの下から覗いてしまうのが嫌だったので、前面を上下に分割する中央線よりも少し上に蝶番を持ってきています。

また、内蓋はマグネットで固定できるようになっており、写真に見える両サイドの円形の縫い目は、どこにマグネットがあるかが触ってわかるためのガイドになっているのです。

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底面部。


こちらも、もうおなじみになった棒を使った蝶番式ですね。

これが思いの外、バッグとキャリアを強力に固定できるために、もはやベルトが必要なくなってしまいました。
ベルトが不要になると、雨の時にでもバッグ全面を覆うようにレインカバーを付けられる、という大きなメリットが生まれます。

G2のオーナーは、「半年で早くもG2はレガシー(前世紀的な)バッグになってしまったね」と言っていましたが、まさにそのとおり。

それだけの画期性のある蝶番式のアイデアをいっしょに考えてくれた友人には、特許料でも支払いたいところです。

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以前の記事でも触れたとおり、バッグの側面はハニカム型になっていて、この角度はリアキャリアからとったものです。
ちなみにこの角度は、84.0度です。
シートポストも同じ角度なので、ひとつの合理的な理由のあるマジックナンバーなのかもしれません。


写真でもぴったりですね。

リアキャリアの背もたれをぴったり使うことができることで、固定部を背もたれ側に持ってこれますから、そのぶん底面をかなりすっきり作ることができました。
底面がすっきりしているということは、これからもしパニアバッグなどを作った時にでも、リアバッグと共存させることが容易い、というメリットがあるということにもつながっています。

細部を設計段階からしっかりと詰めておくと、後々得することが多いですね。
数学の証明問題を解く時に、結論は同じでも、無駄の多い証明はそれ止まりになることに対して、理路整然とした証明は何にでも使える、ということと似ています。
もっとも科学の世界の「遠回り」は、ずっとずっと後になってから気付かされることも少なくないのですが。

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ベルト留めは立体的な構造になっています。


「これどう作ってるの?」と聞く人は、自分の手でものづくりをしたことがあるか、ものづくりに向いている人ですね。
見た目の対象の構造が、どのようなものになっているのかと着目できなければ、ものづくりはできませんから。

その意味でものづくりは、作り手を現象論的な段階にとどまらせることを許しません。
また反面、評論家や形而上学者が現象論から抜け出ることのできない理由もここにあるわけです。

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バッグの後部にはDカンがついていて、サドル下のレールとベルトで固定できるようになっていますが、底面の蝶番がこれだけしっかりと作れるようになった今、あまり必要ではなくなりました。

天板にボタンで留まっているベルトの開始が唐突にならないように、またフロントバッグからの流れを感じさせるように、Dカンの下には意匠が施してあります。


Dカンは要らなかったんじゃあ?という質問もありそうですが、こんなふうに使えるようです。(オーナーが写真を送ってきてくれました)


寝袋とマットが、バッグの横幅とぴったりですね…なんという偶然。隙がなさすぎる。驚きました。

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フロントバッグが子鳥だとすると、リアバッグは親鳥です。


子鳥のほうはずいぶん良い色になっていますが、れっきとした同じ革です。
どう変わってゆくかが楽しみです。

自転車全体の写真が届いたら、おいおいそれも載せることにしましょう。

(了)

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