2011/11/07

【メモ】『スティーブ・ジョブズ II』

帰ってきました。下巻のほうのメモ。


p.95で、この前、「世の中には悪シンプルが多い」と言ったのと同じことが出てきてびっくりした。
この部分は、表現そのものがとても似ていたから特別に驚いたのだけども、他の部分をみても、いつも堅く誓って守ったり、自然に馴染んでいることばかりで、わたしが彼にどれほど大きなものを学ばされてきて、勇気づけられてきたのかが改めてよくわかった。

パソコンのパの字も知らない頃に、隣に座っていた友人になにを買えばいいのかと聞いて、その人が持っていたのとまったく同じ物を取り寄せたことが懐かしく思われるが、そのときにAppleのコンピュータを選べていなかったのなら、自分の人生も「まったく」違っていた(誇張ではない)のだと思うと、なおさらに有り難いことだなあと思わされる。

アップルという会社は、ひとつの有機体として扱うのが相応しいというほどに、ひとつの世界観を持っている。
ああしたかと思うと、さっきのはナシ、次はこっち、というような会社と一線を画すのはまさにその点なのであって、こういった経営者の生い立ちや思いに直接的に触れなくても、ひとつの作品(表現)をじっくりと見つめて、そこに込められた思いを捉え返すときには、作り手の顔が見えるほどに、一本の軸を貫いて個性的である。

つい1年前、学生が持っていたiPhone 4を触らせてもらったとき、手のひらに乗せたものから、一筋の電流が流れたような衝撃を感じたのを、いまでも覚えている。
わたしはそのころ日本にはじめて入ってきたiPhoneである、3Gを使っていたが、それとは比べてものにならないほどの、大きな金属の塊から切り取ってきたような凝集感、端から端までがまったくの均一さで整えられている研ぎ澄まされた静謐さを感じたもので、「たった数年でここまで練り上げるとは…!?」と、その完璧さに心底、心底驚いた。

これだけの表現を見せつけられれば、実際のところ、作り手がどれほどの濃密な、統一された思想性でもってこの製品を世に送り出してきているのかがおぼろげながら見えてこようというものである。
そうすると、アップルについて書かれた書籍というのは、そのおぼろげながら見えてきたというアップル像について、事実的な答え合わせをしてくれる働きはするけれども、逆に言えばそれだけでしかない、ということである。

やっぱり、一流の表現というのは、作り手が無駄な口上を垂れなくとも、作品そのものがすべてを語っているものなのだなあ。

わたしたちも、巨人の肩に乗せてもらっているだけでは、いけない。


◆メモ◆

p.22 地球に生まれてきた理由
「(ネクスト社を立ち上げてソフトウェア販売に特化せざるを得なくなったことについて)あれは僕が望む仕事ではなかった。個人に製品を売れない状況に、本当に気が滅入ってしまった。僕は、法人向けのエンタープライズ製品を売ったり、誰かが作ったぼろいハードウェアにソフトウェアをライセンスするためにこの地球に生まれてきたんじゃない。ああいう仕事がおもしろいとはどうしても思えないんだ」

p.37 なぜ仕事をするか
(ピクサー社の社長のほかにアップル社のCEOを兼任すると告げに行ったとき)「このせいで家族との時間がどれだけ減るだろうか、また、僕のもうひとつの家族、ピクサーとの時間がどれだけ減るだろうかとずっと考えていた。でも、アップルがあったほうが世界は良くなる。そう信じるからやりたいと思うんだ」

p.39 自我が求めるもの
ジョブズの場合、人々にすごいと思われるモノを作る――それこそが自我が求めるもの、己のうちから沸き上がる衝動なのだ。実際には2種類のモノ、ひとつは画期的で世界を変えるような製品、もうひとつは連綿と生き続ける会社だ。

p.54 あれかこれか
これが正しいと確信したジョブズは誰も止められない。しかし少しでも疑いがあると消極的になり、自分にとって必ずしも都合のよくないことを考えずにすまそうとする。

p.60 長続きする会社は自らを再発明する(マークラ)
「PC事業ではマイクロソフトに隅へと追いやられてしまった。なにかほかのことをする会社に再発明する必要がある。ほかの消費者製品とかほかの機器とか。蝶のように変態しなければならないんだ」

p.65 アップルの顧客
「アップルのコンピュータを買う人というのはちょっと変わっていると思う。アップルを買ってくれる人は、この世界のクリエイティブな側面を担う人、世界を変えようとしている人々なんだ。そういう人のために我々はツールを作っている」(1984年 Macworld Bostonでの基調講演)

「我々も常識とは違うことを考え、アップルの製品をずっと買い続けてくれている人々のためにいい仕事をしたいと思う。自分はおかしいんじゃないかと思う瞬間が人にはある。でも、その異常こそ天賦の才の表れなんだ」(同上)

p.76 "Think Different"キャンペーンで取り上げられた人物
アインシュタイン、ガンジー、レノン、ディラン、ピカソ、エジソン、チャップリン、キング。マーサ・グレアム、アンセル・アダムス、リチャード・ファインマン、マリア・カラス、フランク・ロイド・ライト、ジェームズ・ワトソン、アメリア・イアハート。
リスクを取り、失敗にめげず、人と異なる方法に自らのキャリアを賭けたクリエイティブな人が多い。

p.83 きちんと経営された会社は個人とは比べものにならないほどイノベーションを生み出せる
「会社自体が最高のイノベーションになることもあるとわかったんだ。つまり、どういうふうに会社を組織するのか、だよ。会社をどう作るのかはとても興味深い問題だ。アップルに戻るチャンスを手にしたとき、この会社がなければ僕に価値はないとわかった。だから、とどまって再生しようと心に決めたんだ」

p.86 ジョブズの得意技:"集中"
「なにをしないのか決めるのは、なにをするのか決めるのと同じくらい大事だ。会社についてもそうだし、製品についてもそうだ」

p.86 パワーポイントは使用禁止
「考えもせずにスライドプレゼンテーションをしようとするのが嫌でねぇ。プレゼンテーションをするのが問題への対処だと思ってる。次々とスライドなんか見せず、ちゃんと問題に向き合ってほしい。課題を徹底的に吟味してほしいんだ。自分の仕事をちゃんとわかっている人はパワーポイントなんかいらないよ」

p.95 本当のシンプルさ
「より少なく、しかしより良く」(工業デザイナー、ディーター・ラムス)

アップル初のパンフレットで「洗練を突きつめると簡潔になる」と宣言して以来、ジョブズは複雑さを乗り越えたところにあるシンプルさを求めてきた。複雑さを無視したシンプルさではないのだ。

「製品の本質を深く理解しなければ、不可欠ではない部分を削ることはできません。」(ジョナサン・アイブ)

p.148 思考パターン
人間は30歳になると思考パターンが型にはまり、創造性が落ちる
「ほとんどの人は、レコードの溝のようにこのパターンにとらわれてしまい、そこから出られなくなってしまいます」
「もちろん、生まれながらに好奇心が強く、いくつになっても子どものように人生に感動する人もいるにはいますが、まれです」
(ジョブズがデジタル革命の次なる段階を予見できた理由:人間性と技術の交差点、完璧主義者、シンプルの追究、「全財産を賭ける」)

p.176 音楽配信に成功した理由
「技術を生み出すには直感と創造性が必要であることも理解していて、なおかつ、芸術的なものを生み出すには修練と規律が必要だとわかっている人は、僕以外、そう何人もいないと思うよ。」

p.193 事業の基本理念:"共食いを恐れるな"
「自分で自分を食わなければ、誰かに食われるだけだからね」

p.218 企業スポンサーのすべてが悪魔との契約とはかぎらない/芸術の仕事
「ちょっと考えてほしい。今回の"悪魔"は、ロックバンドにもそうそういないというほどクリエイティブな連中だ。リードシンガーはスティーブ・ジョブズ。彼らは、音楽文化にエレキギター以来の美しい芸術品が生まれるのを手助けしてくれた。iPodだ。芸術の仕事は、醜いものを追い払うことだろう?」(U2 ボノ)

p.228 デジタルは人々を分断する
「ネットワーク時代になり、電子メールやiChatでアイデアが生み出せると思われがちだ。そんなばかな話はない。創造性は何げない会話から、行きあたりばったりの議論から生まれる。たまたま出会った人になにをしているのかたずね、うわ、それはすごいと思えば、いろいろなアイデアが湧いてくるのさ」

p.253 散歩
ジョブズは歩きはじめるとき、いつも、コンピュータが進化する歴史をどう見るかについて語り、最後のほうで細かな数字の交渉をした。

p.367 人の心を震わせるのは人間性と結びついた技術
「(タブレットはPCの延長線上にあるのではなく、)これはポストPC時代の機器で、PCよりもずっと直感的に、ずっと簡単に使えなければならないんだ。PCなんかよりもずっと緊密に、ソフトウェアとハードウェアとアプリケーションが寄り合わされていなければならないんだ。そのような製品を作るという面で、僕らは、正しいアーキテクチャーがシリコンにはもちろん、組織にも組み込まれていると思うんだ。」

p.416 白黒二分の世界観
「史上最高」でなければ、「くだらない」か「無能」か「食えたものじゃない」のだ。だから、ほんの少しでも欠陥があると感じれば、がんがんに怒りちらすことになる。金属部分の仕上げしかり、ネジの頭のカーブしかり、入れ物の青みしかり、ナビゲーションの直感的わかりやすさしかりで、ある瞬間に「完璧だ!」と宣言する直前までは「徹底的にお粗末」なのだ。

p.416 自然が望むもの
「自然はシンプルさと一貫性を愛する」(天文学者、ヨハネス・ケプラー)

p.424 会社の原動力
「僕は、いつまでもつづく会社を作ることに情熱を燃やしてきた。すごい製品を作りたいと社員が猛烈に頑張る会社を。それ以外はすべて副次的だ。もちろん、利益を上げるのもすごいことだよ?利益があればこそ、すごい製品を作っていられるのだから。でも、原動力は製品であって利益じゃない。」

p.424 顧客自身は自分が何を望んでいるかがわからない
「「顧客が望むモノを提供しろ」という人もいる。僕の考え方は違う。顧客が今後、なにを望むようになるのか、それを顧客本人よりも早くつかむのが僕らの仕事なんだ。」

p.425 交差点
「文系と理系の交差点、人文科学と自然科学の交差点という話をポラロイド社のエドウィン・ランドがしてるんだけど、この「交差点」が僕は好きだ。魔法のようなところがあるんだよね。イノベーションを生み出す人ならたくさんいるし、それが僕の仕事人生を象徴するものでもない。/アップルが世間の人たちと心を通わせられるのは、僕らのイノベーションはその底に人文科学が脈打っているからだ。」

p.428 僕の仕事
「僕は自分を暴虐だとは思わない。お粗末なものはお粗末だと面と向かって言うだけだ。本当のことを包みかくさないのが僕の仕事だからね。」

p.429 先人の肩に乗る
「僕がいろいろできるのは、同じ人類のメンバーがいろいろしてくれているからであり、すべて、先人の肩に乗せてもらっているからなんだ。そして、僕らの大半は、人類全体になにかをお返ししたい、人類全体の流れになにかを加えたいと思っているんだ。それはつまり、自分にやれる方法でなにかを表現するってことなんだ――だって、ボブ・ディランの歌やトム・ストッパードの戯曲なんて僕らには書けないからね。僕らは自分が持つ才能を使って心の奥底にある感情を表現しようとするんだ。僕らの先人が遺してくれたあらゆる成果に対する感謝を表現しようとするんだ。そして、その流れになにかを追加しようとするんだ。/そう思って、僕は歩いてきた。」


◆正誤◆
p.133 「破れたジーンズにハイネックが現れたかと思うと、」→「破れたジーンズにハイネックで現れたかと思うと、」

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