2011/08/01

どうでもいい雑記:Lionにおけるホームとは何か (1)

腕が上がりません。


ところが日頃の生活を振り返ると、心当たりがありすぎてどれがいけないのかを特定するのが難しいのです。

実のところ、毎日同じトレーニングをするよりも、少しは中休みをとったほうが身体的に都合がよく効率が良い場合もあるのですが、わかっていてもなかなかやれないのです。

仮にも後進に正しいことを伝えてゆかねばならない学者を自認するならば、借り物の理論やらを横滑りして偉そうにふんぞり返るという姿勢では、文字通りの名折れというわけで、もし「中休みをとったほうが良い」と結論づける場合にも、自分の身体で本当に効率が悪いことを試してみて、それが確かなのだと事実的にも理論的にも裏付けがとれたのでなければ、誰にも伝えることをしてはいけないからです。

そういうわけで、ある程度は失敗するだろうなと予想が立てられている場合にも、それが「なぜ失敗するのか」が解明されていないときには、実際にやってみることと同時につっこんで考えてゆくという姿勢が欠かせないことになるわけですね。

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そんなことが理由で、文字を書いたりキーボードを打つのが難しいものですから、込み入った構造を説明しなくても済むようなお題を選ぶことにします。

わざわざ表明しなくとも、公開する記事は、そのときどきの書き手の身体的・精神的・社会的な状況からの規定をまぬがれませんから、頭痛がひどい時には難しい記事の執筆を中断しなければならないのもそれと同じことですね。

さて今回わたしが選んだ記事は、いまの状況にぴったり合っているでしょうか。

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最近書き終えた記事「MacOS X Lion:前を見据える者はどんな橋を渡ってゆくか (1)〜(4)」の最後で、ユーザー視点にたった使いやすさを目指した工夫のうち、iPadにはあるがLionにはまだないものを挙げておきました。

それが、「ホームボタン」の存在です。

すべてはここからはじまって、ある目的をもってそれぞれのアプリケーションを実行したあとそれを中断したい場合には、いつでも戻ってこれるというのが、iPadの持つホームボタンの、思想的な意味です。

ユーザーにとっては、「作業が終わったらホームボタン」、「アプリケーションの調子がおかしくなったらホームボタン」、「深い階層に潜って混乱してきたらホームボタン」、というふうに、それがあることによってもたらされる安心感こそがその主だった役割なのですが、これはLionにはありません。

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その代わりとなっていたのは、今までは"Finder"と呼ばれるファイルブラウザ(Windowsで言う"Explorer")でした。

一般の方には、アイコンがいくつか並んでいる「デスクトップ画面」といえば通じるでしょうか。


Mac OSがいまのかたちになってから十数年来、"Finder"こそが「Mac OSの顔」とされてきたのでした。

しかしこれは、Lionが登場する以前の、いわば「旧世代のPC」にとっては適切であっても、Lionをはじめとした「新しい世代のPC」にはそぐわないものとなってきています。

というのは、新しい世代のPCには、「ファイル」の概念がこれまでよりも薄まってゆくことが目指されているからです。

みなさんがいわゆるパソコンを習うときには、「ファイルを定期的に保存しろ」、「拡張子に気をつけろ」、「アプリケーションとの関連付けに注意しろ」などと、腫れ物でも触るかのごとく「ファイル」というものをくどくどと説明されたことだと思います。

ファイルの保存を怠って、アプリケーションがクラッシュして書き進めたレポートがあえなく取り戻せないものとなったとき、否を問われたのは、なぜだかユーザーの側でした。
一般的な常識からすれば、文字を書いているだけで落ちてしまうようなOSやアプリケーションを設計した開発者に責任をとってもらいたいところでしたが、コンピュータ業界の慣例によれば、なぜかそうはなってきませんでした。

しかし、これからは違います。
突然の停電や子供がリセットボタンを押したなどのアクシデントがあったとしても、Lionは、それまでの作業内容を自動的に覚えていてくれるからです。

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そうして作業内容が自動的に保存されるようになると、「それがどこに保存されているか」は、ユーザーがさほどの関心を払う必要は少なくなってきます。
スマートフォンからコンピュータの世界に入っていったユーザーのみなさんからすれば、それが当然なことでもあるでしょう。

そうすると、"Finder"というファイルブラウザは、あくまでもそれがファイルを閲覧するのに便利だから「Mac OSの顔」と呼ばれて来ていたところが、もはやファイルの概念を意識しなくても済むようになると、その地位を追われることになってきます。

最近の記事の、とくに(4)で追っていったのは、そのことでした。

では、ユーザーのいちばん目に付くところが旧来の意味での"Finder"ではなくなったとすると、
Macにおける「ホーム」(=いつでも帰ることのできる家)は、いったいどこにすべきなのか?
という新しい問題が出てきます。

Appleは、今回のLionではその答えを明確に打ち出せませんでした。
未だ混乱がある、とわたしが述べていたのも、このことです。
彼らがどのような答えを導き出すかはあとのお楽しみとして、わたしたちは、それがどんな形になるべきかを、すこし考えてみてもよさそうです。


(2につづく)

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