2011/05/09

眠れない夜のための革細工

クイズ、これなんだ?

おおよそ55mm*35mm

ヒント:隙間に何かを挿し込んで使います。

厚みは約10mm
◆◆◆

実はこれ、iPhoneのスタンドなのだ。

外出先で動画を観たり、外付けのキーボードを使うときに、
ちょうどいい角度で固定できるスタンドがほしくて、
いろいろと探してみたのだけど、あんまりない。

かさばるのも大きいのもどうしてもイヤで、
それを頑として譲らないから選択肢がほとんどないのだが、
そこをなにかスマートな解決策を提案してくれるものはないものかと探しまわった。


研究でもそうなのだけど、わたしはとにかく、
取り組んでいるものごとの全体像が見えなければ気持ち悪くてたまらないのだ。

いま流行りだからとか、自分の先生がやっているからだとかいうやり方を採用して、
研究が進んだあとに、もっといいやり方を知ったら?これは悲劇である。
だから、おおまかな地図を手に入れたあとで、
目的地にうまく辿り着くことの出来る、
考えうる限り最良の泳法がどれかなのかは、とても注意して選ぶ。

こういう人間なもので、周りからみると、スタート時には、
まるで微動だにせずに足踏みしているように見えるらしく、
事実全行程の8割ほどもこの方法論の検討に当てることも珍しくないものだから、
「あいつはなにもやっていないが大丈夫か」と言われることがある。

◆◆◆

そうして、「iPhoneに最適なスタンドは何か」どころか、
「スタンドとはどういうものか」まで網羅的に検索してみた挙句、
結局さいごにたどり着いたのはこれ、MoviePeg。


選ぶ基準になったのは、「Less is More」(過ぎたるは猶及ばざるが如し)である。
ずいぶんまえにMacBook Airのレザーケースを作った時もそう言ってたっけ。

すこし具体的に言うなら、「なんにでも使える」ことを目指してかさばるものをつくるくらいなら、「この用途だけにしか使えないけれど、シンプルなもの」を目指そうと思ったのだ。

◆◆◆

ただ、「この用途だけにしか使えない」というのは、
「この使い方だけしか認めない」のとは、用途の範囲以上に、その思想が違うと思っている。

一時期流行った「ユニバーサルデザイン」とか、「エルゴノミクスデザイン」だとかは、わたしは当時から、どうも苦手である。
道具というものをとおして、開発者の「こう使え」という思惑が伝わってきてしまうのは、正直言って窮屈に思えてしまうんだもの。

「ユニバーサルデザイン」が売りらしいマウス
「エルゴノミクスデザイン」が売りらしいキーボード

「手で使うものだから手のひらそのままの形にするべきだ」というのは、
いくら製造工程が複雑でコストがかかってプレミアがつくのだとしても、
「理論」と「実践」をいきなりイコールで結んでしまうという短絡そのものなのである。
道具というものはそれが道具である限り、必ず使用者の「使う」という過程との相互浸透において把握せねばならないから、道具の作り手は、「理論」と「実践」をむすぶ、「方法」にこそ着目せねばならないのである。

砕いていえば、使い手である人間に、「どれだけの使い方をまかせるか」、
という観点を持たねばならないということである。

そうして、それぞれの使い手にそれぞれの使い方ができうるように考えて、
論理的帰結としては柔軟性のあるデザインを考案せねばならないのであって、
「こうでしか使えない」というものは、多くの人の手に渡ることはない。
これは、こと大衆向けの工業製品としてロングセラーを目指すのなら、不可欠な視点である。


スタンドについてもその思想は当てはまると思ったので、
いつもの、いちばんいいものだけに「勝手に弟子入り(=私淑)」する、
というルールに従って、取り寄せるつもりであった。

ただこれ、日本に送ってもらうのに英国からの送料がかかるらしく、
本体が8ドル弱なのに送料のほうが高くつきそうである。

◆◆◆

100円のアプリを買うのも1週間ほどかけて、
「ホントにいまの自分にこれが必要か?」と尋ねてしまうわたしにとって、
これはとてもじゃないが割りに合わない。

でも見ているうちに、
これなら作れるんじゃないか、と思ったので自作することにしたのだった。
(あいかわらず、本題までが長いな!)


3mmの革を3枚がさねで作ろうと思ったときに、
ふにゃふにゃにならないだろうかと心配したけれど、ちゃんと自立してくれた。


縦でも横でも、かなり柔軟に使える。


誰かに同じものをくれ、と言われたら、「パクリなのでやれん」
というお答えになってしまうのだが、とりあえず自分で使ってみて欠点を洗い出し、
なにかとんでもないいいアイデアが思いついたらそういうこともできるかもしれない。

創作は模倣からはじまるのはたしかだけれど、
そこにとどまっているわけにはいかないものね。
わたしたちは人間だから。

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