2011/05/23

デザインにおける矛盾の統一

ここに、ひとつの懐中時計があります。


さて、突然ですが問題です。

【問】
以下の素材を使って、この懐中時計を立たせるにはどうすればいいでしょうか?

・3mm厚の革



※素材は、どんな工具でどう加工してもかまいません。

◆◆◆

この問題を解こうとするときに、革素材についての実感がわかない場合には、
とりあえず、曲げても戻せるダンボール、くらいのイメージを持っておけばいいでしょう。

問の条件として、その素材をいくら使ってもかまわないのですから、
同じ形に大量に切ったものを、懐中時計の背の高さくらいまで
積み上げてみてもよいかもしれません。


しかしこうすると、床がつるつるの場合には、だんだんずり落ちていってしまいます。

◆◆◆

そうすると、滑り止めの意味合いも兼ねて、
懐中時計が接地するところにも、滑らない工夫をしなければなりませんね。

すると、こんなふうでしょうか。


これでも、いちおうの機能は持っているかもしれません。

しかしこれだと、「懐中時計を立たせる」だけでいいのに、
ちょっと革を無駄遣いしすぎているような気もしますね。

◆◆◆

そうすると、そこに「素材をできるだけ少なくするには」
という問題意識が生まれてきますから、
2枚だけ組み合わせるとこんなふうになるでしょうか。


ほかには、


それから、



こんなところかもしれません。

◆◆◆

エコ路線を突き詰めて、革を1枚だけ使うことにすると、
たとえばこんなふう。




ほかには、


こういった方向性でも何とかなりそうです。

◆◆◆

これは、適当にメモしたものを使いながら
読者に伝えやすいように整除だてて話しているので、
まるで数減らしのエコ路線が正しいものとして描かれているように見えるかもしれませんが、それが唯一の正しい解法であるというわけではありません。

ついでにいえば、メモしたときは、思いつくままに描きまくっただけでした。

ところが、あるていどのデザインが出揃ってくると、
しだいしだいに自分が目指すものが、明確になってくるものです。


今回の、懐中時計のスタンドをつくる、という目的に従って考えてゆくと、
使用する素材を1枚だけに限定した場合には、
かえって別のホックやボタンが必要になると思いましたので、
2枚がいちばん適切なのではないかととりあえず仮定することができました。

そうして今回採用したのは、2枚の革を使ったスタンドのうち、
さいごの案のものです。

これですね。

土台になる円形の革の上に、横長の穴の開いたやや小さめの革が載っています。
その穴の部分に時計本体を指して、立たせるというわけです。

◆◆◆

わたしがこの案を選んだのは、懐中時計の形というのは円形ですから、
スタンドもそれにあわせた形であるのが、見た目にも合理的であると思ったのです。

しかしこの案の欠点は、形は合理的であるものの、
3mmの深さしかない僅かな穴による抵抗だけで、
それなりの重さを持った懐中時計を支えることができそうにない、というものでした。

今回の目的は、「懐中時計を立たせる」ことですから、
この欠点というのは、いってみればスタンドの存在理由そのものを
揺るがすほどの致命的な問題、ということになります。

整理していえば、
使う素材の多さや形といった「デザイン」と、
スタンドとしての「機能」のあいだに
<矛盾>が存在している、ということです。

ここで、2枚の革だけを使うという条件を諦めて、革の数を増やす、
という方法を用いることにしてもよいのですが、
ここでは、どうにかしてその矛盾を統一して、
デザインと機能の両立をはかってみることにしましょう。

◆◆◆

さて、革2枚だけで、どうすれば座りをよくできるでしょうか。

わたしなりにそのことについて思いをめぐらしてあれやこれやと考えて、
最終的にできたのが、これです。


デザインを見ても、2枚の革で考えてみた案のうち、最後のものに近いですね。

でも、時刻を確認するときのことを考えて、
すこし傾いている本体というのは、どうやって支えられているのでしょうか。

◆◆◆

これは実は、斜めからみるとこんなふうになっています。


背もたれがすこし出ていますから、
これにもたれかかるようにして、時計本体が立っているのですね。

◆◆◆

さてこの背もたれは、どういう仕組みで飛び出しているのでしょうか。

もうおわかりになったかもしれません。

種明かしをすると、


一番下の革の部分に切込みを入れて、
2枚目の革に開けた隙間から飛び出すような形にしているわけです。

◆◆◆

横からみると、


背もたれの部分が下の革とつながっていることがわかります。

◆◆◆

こういうわけで、円形の台座の上に、宙に浮いたようなデザインと、
それなりの安定性を持った機能性、という二つの要素を両立させることができたのでした。


これは、結論が出てから考えてみてはじめて分かることなのですが、
「革の枚数をできるだけ少なくするぞ」という縛りを設けたことが、
下側の革を、土台にすると共に背もたれにもする、という
ひとつの合理性につながっていることがわかってきます。

デザインの世界では、
合理的なものを追求したところにはじめてあらわれる、
無駄のない美しさというものを、禅的な、といったり、
ミニマルな、といったり、機能美、といったりすることがあります。

一見すると、これとは対照的に見える、装飾を凝らしたデザイン(たとえば、サグラダ・ファミリアなどの有機的建築を思い浮かべてもらえるといいと思います。機械的建築を代表するバウハウスとは対照的に語られますね)というものもありますが、実を言うと複雑怪奇に見える装飾のデザインも、それぞれの曲線と間の取り方に無駄があってはいけないという意味で、やはり合理的なものなのです。

一見すると、なんの面白みもないように見える、「合理性」ということば。
これが、デザインというものについて言える、ひとつの核的な論理性です。

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